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サッカー笑わぬ指揮官 公平の「美学」と女性用下着 平成１９年１２月、大阪府立天王寺高校の体育教師だった福田隆（７１）に一通のはがきが届いた。差出人は岡田武史（５３）。
サッカー日本代表監督に返り咲いたことを知らせるはがきだった。
《大変な仕事を引き受けてしまいましたが、何故かプレッシャーがなく楽しみです。本大会で世界を驚かせてやろうかと思っています》
福田にとって高校時代の岡田は教え子の中でも特に印象深い。
髪は長くてボサボサ、当時流行したマンボ音楽のファッションを意識したのか、すそをタイツのように細くした学生ズボンを履き、両肩にはサスペンダー。まん丸眼鏡に特徴的な丸顔とは微妙に合っておらず、風貌（ふうぼう）だけで目立つ存在だった。
「性格はやんちゃでワガママ。周りに合わせない一匹狼（おおかみ）みたいなところがあって、そりゃあ何度も厳しく言ってやりましたよ」と福田。それでも「
サッカーへの思い入れだけは、明らかにほかの生徒と違ってましたね」。
天王寺高は指定学区の中でも各中学のトップクラスしか入れない公立有数の難関校。進学率はほぼ１００％という学校環境の中で、岡田は日本ではマイナースポーツだった
サッカーに没頭した。「１年間に何本の眼鏡を割ったか覚えていない」ほどのめり込んだが、岡田は３年のとき、大学受験に失敗した。
サッカー部の監督だった由井濱洋一（７４）は、岡田が２年の秋にチームの主将に指名した。強豪校ではなかったが、練習後は一人で部室にこもり買い集めた海外の指導書を読みあさる岡田の姿に「リーダー」としての資質を感じたという。
チームの中での自分の生かし方を研究する姿勢、型にはめられない戦術を模索する想像力、チーム全体の調子を見極める判断力…。練習方法をめぐり先輩とぶつかることも多かったが、技術を含めた岡田のレベルは既に突出しており、岡田を中心にチームは次第にまとまった。
「僕もたくさんの学生をみてきたけど、自然に輪の中心になるやつがたまにいるんだよ。会社なら社長になる人みたいな。一見すれば眼鏡のヤサ男で、のほほんとしていて、どう見てもキャプテンタイプじゃないんだけど、彼はそういう意味で希有（けう）な人でしたなあ」
当時チームメートの堀之内茂美（５４）は、部員が嫌がっていた「１００メートルダッシュ」に主将だった岡田が率先して加わり、新人部員に向けて言った言葉が忘れられないという。
「おれもやるからついて来い」
信賞必罰と公平。岡田は以前、指導者としての理念をこう語ったことがある。
「良いときはほめて悪いときはしかる。それをだれに対してもフェアに行う。代表を預かったときも同じです。代表は特に人生がかかっていますからね。そんな状況の中では、自分をさらけ出して正面からぶつかり合うしかないんです」
チームの中で個人が利己的な感情を出したらプロとして失格。理念の根底には、弱小チームを主将として引っ張った高校時代の経験もあるだろう。だが、それ以上に自己を貫く岡田の「美学」が色濃く反映しているように思える。
天王寺高
サッカー部には代々語り継がれる岡田の「伝説」がある。
練習や試合のとき、岡田は股（こ）関節部の動きをスムーズにするためサッカーパンツの下に必ず女性用下着を履いてプレーした。まだインナーパンツがなかった当時、他の部員は全員、海水パンツを着用したが、岡田は大まじめな顔で「これが一番安定する」と言って履き続けたという。
「『自分で考えろ』という当時身についた習慣が今の財産になっている」。岡田はかつて高校時代をこう振り返ったことがある。
サッカーの無名校ながら３年のときには国体での活躍が認められ、ユース代表にも選ばれた岡田。このとき高校生で選ばれたのは３人だけだったが、由井濱は当時つけた日誌にこう書き記している。
「今のサッカーに対する情熱を持続すれば、おそらく日本サッカー界にプレーヤーとして、あるいは指導者として必要な人間になれるものと確信しております」
その言葉通り、岡田は日本サッカー史に名を残すことになる。（敬称略）
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100520-00000518-san-socc
